主な登場人物
マリエル・ウッドワース
ヘイゼル・キャンブリック
キャシー・バクスター
ロイド・バクスター
“スティンガー”ヒュー・ラスカル
クインシー“ザ・ボマー”
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 あるうららかに晴れた日。マリエルとヘイゼルがハーブ園の庭先で午後のお茶を楽しんでいると、
いつものごとくパン籠を振り回しながらキャシーがやってきた。
「やっほー、マリエル、ヘイゼル」
「やほー、キャシー」
「こんにちは。キャシーもお茶いかが?」
「おっ、いいね。ちょうど新作のパンがあるんだよ」
パン籠をテーブルに置いてさっと覆いを取ると、高原の花畑の香りがさっと周囲に広がった。
「あ、これ、ラベンダーのハチミツを使ったパンだね」
「うん、マリエルが取ってきてくれたやつ。みんなに試食してもらってこいって、オヤジがさ」
「わーい、やったぁ!」
「ほんと、ステキな香りね」
「あ、ヘイゼルに届け物があったんだ。はい、これ」
「え、手紙?あたしに?」
「うん、スージーから預かってきたんだよ」
「まあ、パパからだわ。ありがとう、キャシー」
「ヘイゼルのパパって、都会に居るんだっけ?」
「ええ、そうよ。学校の先生をしているの」
「いいなぁ。ヘイゼルのお父さんも、マリエルのお父さんも、なんだかカッコいいもんね」
「どして?あたしロイドさん大スキだよ」
「そうよ。いかにも美味しいパンを焼いてます、って感じでステキだと思うわ」
「そう?ま、見てくれはあきらめるとしても、もっと、カッコいいドラマのある父親がほしかったかな〜」
「ドラマって、どんな?」
「んー、人には言えないような過去を背負ってて……」
「たとえば、どんな過去?」
「え、えーと……」
 好奇心いっぱいのマリエルのツッコミにしどろもどろになるキャシー。その時、
それまで黙ってなにごとか考えていたようすのヘイゼルが口を開く。
「たとえば、もと凄腕の殺し屋とかはどうかしら?」
「「こ、殺し屋?」」
 唐突な天界に思わずハモるマリエルとキャシー。
「そう。昔のロイドさんは実は一匹狼の殺し屋で、ある組織から逃げようとしてるときに、たまたま
この街を通ったの。空腹で行き倒れる寸前だったところに、焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂ってきたのよ。
匂いに誘われて立ち寄ったそのお店で、ロイドさんはキャシーのお母さんと運命の出会いをして、
ふたりはひとめで恋に落ちて結ばれたのね。それからロイドさんは愛する妻とやがて生まれてくる
可愛い娘のために一所懸命パン造りの修行をして、街一番のパン屋さんになったんだわ」
 ここまでよどみなく一気に喋り、瞳を輝かせながらマリエルたちを振りかえるヘイゼル。
「──と、いうのは、どうかしら?」
 あっけに取られて顔を見合わすキャシーとマリエル。
「どうかしら、って言われても……ねえ?」
「ちょっと、無理があるんじゃないかなー」
「そう?そうかしら……じゃあ、えーと……」
 ふたたび真剣な表情で考え込むヘイゼル。何とも言えずにいたその親友ふたりだが、
やがてキャシーがあっと声を上げてパン籠を手に取った。
「いっけない。ほかにも試供品も配らないと、オヤジにどやされちゃう。じゃ、またねっ!」
 あわてて去っていくキャシー。だがすぐに動転した様子で戻ってくる。
「たたたたた、たいへんっ!」
「どうしたの、キャシー?」
「たたた、倒れてるのっ!」
「ええっ、誰が?」
「ここここ、殺し屋がっ!」
「「こ、殺し屋?」」
 こんどはマリエルとヘイゼルの声がハモる番だった。